大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)786号 決定

(一)抗告人は、昭和三十二年九月四日午前十一時の判決言渡期日においてその言渡前に忌避の申立をした旨主張するので、按ずるに、本案事件記録及び同記録中同日の口頭弁論調書によれば、原決定も説示する如く本案事件の担当裁判官甲は、右期日に、さきに昭和三十二年八月二十三日の口頭弁論期日に抗告人のした同裁判官に対する忌避申立事件(東京地方裁判所昭和三十二年(モ)第一〇五七一号)についての裁判がまだなされていないに拘らず、右本案事件についての判決の言渡を始めたので、抗告人から本件忌避の申立がなされたけれども、同裁判官はそのまま本案事件の終局判決を言渡してしまつたことを認めることができるのであつて、たとえこの場合抗告人の主張するように判決の言渡開始以前に本件忌避の申立があつたとしても、当該裁判官が訴訟手続を停止することなく敢えて判決を言渡したものである以上、該終局判決は当然無効と解すべきでなく、若しこれを以て訴訟手続に違背するものとすれば、該判決に対する上訴の理由として主張するは格別、忌避の申立そのものはこれがため当然その理由を失い、申立は棄却を免れないといわねばならない。けだし裁判官忌避の申立は当該裁判官をして裁判に関与せしめないことを目的とするものであるから、既に右のような判決のあつた以上申立はまたその意味なきに帰するからである。(昭和五年八月二日大審院第四民事部決定、民事判例集第九巻七六八頁参照)

この点に関し抗告人は抗告理由の二において、昭和二十九年十月二十六日最高裁判所第三小法廷判決(判例集第八巻第十号一九八〇頁参照)の反面解釈として、本件の場合前示東京地方裁判所昭和三十二年(モ)第一〇五七一号及び同年(モ)第一一〇一七号(本件)の裁判官忌避申立両事件の裁判確定を待たずになされた前示終局判決は有効ときまらないから、本案事件はなお原裁判所に係属しているものと解すべきであつて、単に終局判決の言渡があつたとの一事で忌避の申立は当然その理由を失つたとの見解は不当であると主張する。しかし抗告人引用の最高裁判所第三小法廷の判決は、「忌避の申立を受けた裁判官は民事訴訟法第四十二条によりその申立に付ての裁判の確定に至るまで訴訟手続を停止しなければならないものであり、判決をすることは同条但書の急速を要する行為に該当しないから、忌避の申立を受けた裁判官が忌避の申立についての裁判のないうちに関与してなされた原判決には重要な訴訟手続の違背がある」との上告論旨に答えたものであつて、右判旨によれば「原判決はそのなされた時においては所論の理由により違法ではあつたけれども、該判決後忌避の申立が理由なしとして排されその決定が確定した以上、これにより原判決は有効となつたものと解するを相当とす」とあるけれども、この反面解釈から、忌避の申立についての裁判が確定しない間は当該裁判官の関与してなされた判決は当然無効であるとの趣旨をも包含するものとは解し難く、むしろ右の場合判決は当然無効ではないが、これによつて不利益を受けた当事者は右の違法を理由として上訴をなし得ることを前提とし、ただこの場合と雖も忌避の申立が理由なしとして排斥された決定が確定した以上、これによりその瑕疵は治癒されるという意味と解される。従つて前段に説示する当裁判所の判断は、右最高裁判所の判例に牴触するものではない。

(斎藤 坂本 小沢)

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